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黄銅材料の時期割れ(応力腐食割れ)について

鍛造ブログ 担当の徳田です。


毎朝の蝉の鳴き声と真っ青な空が夏本番を感じさせてくれ、大変暑い日々が続いていますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?

先ずは、この度の西日本豪雨ではお亡くなりなられた方々のご冥福と、被災された皆様には心よりお見舞いを申し上げたいと思います。

さて、この大雨による川の氾濫は、一夜にして家族や住宅を失ったり、人々の日常生活を奪ったり、ここ最近の大阪北部地震と言い、大自然の振るう猛威には、人間は為す術がないことを痛感させられる災害でした。

これから夏本番をむかえて被災地では厳しい暑さの中での避難生活、また復旧、復興作業が続くかと思いますが、被災者の皆様におかれては体調に留意され、一日でも早く日常生活に戻られる事を祈念しております。


ところで、話が変わりますが、毎年京都では、7月1日から1か月間にわたり祇園祭が始まります。なんといっても見どころは、山鉾巡行(前祭)の7月17日前後で、最大の人出となります。

またこの頃から関西はようやく本格的な夏の始まりになると言われていて、一段と麦酒が美味しくなり、飲む量もとても進むのは言うまでもありません(笑)


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それでは、本日のテーマは「時期割れ」についてお話したいと思います。
まず、金属には使用環境との相性というのがありまして、例えば磁石でいうならばN極とS極みたいなものなんです。

たとえば磁石であれば、N極とS極であればお互いに引き合い相性が良いのですが、NとN、SとSのように同極同志であれば反発し合いますよね。

但し、金属の場合になりますと、特に冷間加工を施した合金の場合は(黄銅に限らず)特定の環境において、その金属に付いたわずかな表面キズや欠陥が、いつの間にか思わぬ程大きく広がり、全く大きな力が作用していないにも拘わらず割れや破断にいたるときがあります。

これを「時期割れ」や「応力腐食割れ」と言います。

英語では「SEASON CRACKING」(シーズンクラッキング)とも言います。


その語源は昔に、黄銅製の薬きょうを船で輸送中、長期間にわたり船内の塩水やアンモニアの雰囲気に曝されていたため、荷揚げして開梱してみると薬きょうが割れて使い物にならなかったことに由来しています。

基本的に純金属の場合は時期割れが発生しないと言われていますが、私たちが日常的に使用している金属の多くは合金なので、その金属の種類と使用環境は非常に重要になります。

例えば、一般に銅合金と言ってもざっくりと10種類あり、使用部位により使い分けされています。

例えば先日、お客様から「高力黄銅」と言う材料でボルトを造っていますが、製品使用中にそのボルトが折損しお客様からクレームが来ているのだけど原因がわからないとの相談を受けました。

このボルト(冷間加工製)は人命を守る金具に使用されており、設計思想ではその字の通り黄銅の中でも比較的強度の高い材料を選定されて安全マージンを高くして折れにくく計算されていました。

しかし、強度優先であれば他の合金材料でもよいのですが、銅合金には「防爆性の高さ」があり、今回の製品ではその機能が必要でした。

※防爆性...金属同士の摩擦でも火花が出にくい特性のこと


つまりこのボルトの必要な機能は「高強度」+「防爆性」であり、それに相応しい材料という事で当該材料を選定されたようですが、この材料は黄銅の種類でも比較的時期割れし易い材料であった為に、先ずはアンモニアイオンや塩分の多い環境で使用されていなかったか調査して下さいとお伝え致しました。

特に黄銅はフェノール樹脂との組み合わせで、アンモニアが発生し応力腐食割れが発生しやすく、ステンレス鋼では塩素の雰囲気がその割れを進行させ、アルミニウムは水蒸気や海水がその原因になることが多いのです。

ですので、設計の際は十分に留意されることをお勧め致します。

また、基本的に同じ黄銅材でも高力系の強度の高い材料ほど時期割れの進行が早い場合が多くなるのは、その物性として靱性(粘り)が少ないためだと思われます。そこで、金属の選定にあたっては極端に「硬さ」ばかり求めるのではなく「靱性(しなやかさ)」のバランスがとても大切になります。ちなみに先のボルトの材質に関しましては、お客様には熱間鍛造から切削品にとお薦めし、「高強度」+「防爆性」にバッチリ対応。無事ボルトの問題は解決されました。


これからも中野鍛造所では鍛造のみならず、金属加工のソリューション企業としてお客をサポートしてまいりますので、ぜひ鍛造を始め、金属加工部品等にお困り事がれば、何なりと遠慮なく、中野鍛造所までお申し付けください(笑)。